DELIVER ME FROM NOWHERE

 

こんにちは、あやはなです。


ブルース・スプリングスティーンの伝記映画、
「Deliver Me From Nowhere (邦題 孤独のハイウェイ」を観て来ました。






「Born In the U.S.A.」の大ヒットで、アメリカンビッグダディ、
80年代のアメリカの偉大さの象徴みたいに扱われてしまったブルースさんですが、
実はめちゃめちゃ繊細な方で個人的には素晴らしいロッカーであり、
素晴らしいソングライターという印象です。
日本のアーティストにも多大な影響を与えた方で、
浜田省吾さん佐野元春さん尾崎豊さんなんかは、
絶対的なフォロワーであったと思います。




あの永野さんがコメントを。





大ヒット曲「Born in the U.S.A.」は派手なフレーズから、
アメリカの政治キャンペーンなどで使用されていますが、
内容はベトナム戦争が泥沼化した時代の鬱屈とした時代の世相を歌った曲です。
最近はご本人も政治的な発言が多いですが、
エドウィン・スターの「War」をカバーしてたりバリバリの反戦主義者で、
スリーマイル島の原発事故に抗議するNo Nukesに参加されてたりします。
ロックがパワーを持っていた時代の証人ですね。
全体的にブルースさんの作品からは当時のアメリカの文化や世相が生々しく表現されていて、
貴重な資料でもあるなと思います。


ちなみに民主党の支持者みたいですが、
先日トランプ大統領を指して「彼は無能で不適格者だ」と発言したら、
トランプさんから、
「あの干からびたプルーンの口を閉じさせろ!」
と言われていて笑ってしまいました。
こういうセンスがすごいですね。
お二人はいつも何か言い合ってる印象です。本当は仲良しかも知れません。



ブルースさんが干からびたプルーンなら、
トランプさんはカビた雪見だいふくでしょうか。
どちらも憎めないキャラです。



日本でも坂本龍一さんや清志郎さんなんかは、
…長くなるのでやめましょう。


そして映画なんですが…
個人的にはアヤデミー賞最優秀作品賞、主演男優賞、脚本賞を上げたいくらい、
本当に良く出来た映画で感動しました。





伝記映画だと生まれて大きくなって活躍してと、
時間の流れが一本調子ですが、この作品は上手く過去と現在を行き来しながら、
多面的に主題を掘り下げて行く手法は見事でした。
切り取った時代も良かったです。


物語は「リバー」というロック史に残る名盤を引っ提げてのツアー後から始まります。
名声とツアーに疲れたブルースさんは酷く内省的な精神状態に陥ります。
自分の心のルーツを辿るうちに自身の幼少期を思い、
高圧的な父と、父に認められなかった孤独に行き当たります。


強くあれと言う父も、実は社会の周縁を生きていた人物で、
彼自身も理想に届かない不甲斐ない自分を責め、
鬱屈とした日常を送っていました。
息子にはそうなって欲しくないという願いからなのか、
家父長的で強い父親像を演じ続けてるんですね。
そこに複雑な親子の確執が生まれていました。



子供の頃のブルースさんとお父さん。良いシーンでした。



「リバー」という成功したアルバムには「ハングリーハート」という、
誰もが満たされない心を持っていると歌う曲がありますが、
それは自分自身の事だったと気が付きます。


そんな感情の中、世の中に認められるヒット曲ではなく、
静かな内面の呟きのような音楽の中に自分の孤独を癒す道を探し始めます。
それはベッドルームで作られた極めて内省的で、
全編弾き語りの地味なフォークソング集となってしまいます。
乱暴に例えるとB'zさだまさしになってしまった感じです。
いや、さだまさしさんすごいんですが。


これらの曲を作る過程の内面を抉る様な壮絶な創作姿勢と、
イメージがまとまり形になって行く様子が凄まじくて、
「あぁこれはすべてのアーティストが参考になるな」と思いましたが、
その後、見事に心が壊れてゆく様子に、
「あぁ絶対に見て欲しくないな」と思いました。


当然レコード会社はそういう地味なフォークのアルバムではなく、
(後年もっと地味な「ゴースト・オブ・トム・ジョード」というアルバムもありますが)
華々しいロックなアルバムを期待している訳ですが彼は断固として、

「このアルバムをベッドサイドで録音した音で出したい。
 シングルもツアーも宣伝も一切なしだ」と譲りません。

レコード会社との対立を盟友であるジョン・ランドーが、
ブルースさんの意向に沿う形でリリースされる様に奔走します。
そんなトラブルの渦中、孤独な時期に支えてくれた恋人との別れもあり、
とうとう彼の心は見事に砕け散ってしまいます...


この心が壊れてゆく様子を、
主演のジェレミー・アレン・ホワイトさんは、
リアリティのある見事な演技を披露してくれます。
若い頃のブルースさんに似てるだけかなと思ってましたが、
内面の葛藤を見事に目で表現されていて思わずもらい泣きしてしまう演技でした。



目の演技力がとにかくすごい。



もちろん歌も本人の様にしゃがれた声を再現されています。
冒頭のライブシーンは本人かと見紛うほどの完成度。
ブルースさんなのかジェレミーさんなのか全く区別が付かない再現度で恐ろしいです。
声まで似せるってどういう事でしょう。


昔の映像かと思って観てました。


ボブ・ディランの映画のティモシー・シャラメさんも、
飄々とした気難しいロックスターを上手に演じられていましたが、
ブルースさんの方がシンプルでストレートな性格ゆえに、
ずっしりと重厚な演技を要求される気がしましたが、
見事な役者魂で苦悩するロックスターそのものでした。



主演のジェレミー・アレン・ホワイトさん。
ブルースさんの若い頃に雰囲気似てますね。本当に見事な演技でした。


そして気になるラストシーンは、
2人の名優による感動的なシーンなのですが、
これ以上はネタバレ過ぎ。


いや本当に後年ブルースさん自身も、
「あの時代は本当にヤバかった。自分が自分でなくなる寸前だった」
と言ってらした複雑な心理状態を、
丁寧に見事に再現されていて素晴らしかったです。
ファンは絶対に観て損はないですし、
きっと観終わった後に「ネブラスカ」「トンネル・オブ・ラブ」を、
あらためて聴きたくなるはずです。


そして途中で流れたサム・クックの「The Last Mile Of The Way」
これは本当に映画に深くリンクした素晴らしい選曲でした。


ちなみに極限状態で生まれた地味なフォークアルバム「ネブラスカ」は、
リリース後、全米3位まで行っています。
当時の時代や人々の心象とシンクロしたんですね。


このアルバムはやっぱり地味なのでそこまで聴いてはいないですが、
やはり「Johnny 99」という曲は白眉というか、
ブルースさんのソングライティングの素晴らしさを感じます。


この歌の主人公は不景気で職を失い自暴自棄になり酒に酔い人を撃ち殺してしまいます。
逮捕され裁判になり彼は禁錮99年の判決を受けジョニー99と呼ばれます。
彼の母は取り乱して再審を訴えますが、彼は判事に向かって独白を始めます。
憐れみを求めたい訳ではないけど俺の身の上話を聞いてくれ…


アメリカの社会から脱落した男の悲哀を謳った歌ですが、
強いアメリカは弱い者を助けない。
自己責任という無慈悲な断定に疑問を投げ掛ける歌です。


ブルースさんの作品は、
「ストリーツ・オブ・フィラデルフィア」辺りまでしか聴いてなく、
最近の作品はほとんど分からないのですが、
90年代までの作品群は彼が本当に素晴らしいソングライターであると証明しています。
稀代のストーリーテラーであり曲の中で物語をドラマティックに演出する才能は、
本当に素晴らしくブルースさんの真骨頂です。
街で暮らす名もなき人々のささやかな人生の苦悩と希望を歌う吟遊詩人です。


おそらくブルースさんの楽曲で、
1番ドラマティックな作品かと思います。傑作ですね。
名盤「Born to Run」(邦題 明日なき暴走)のオープニングを飾る曲。


Bruce Springsteen - Thunder Road (Official 4K Video)
https://www.youtube.com/watch?v=dHlqklrplaQ


そして個人的にはブルースさんの内省的な歌に惹かれます。
何気ない日常生活に潜む不安や恐怖を、
映画の通りその繊細な感受性で感知する能力に長けた方ですね。
結婚したけど相手の気持ちに確信が持てずに疑心暗鬼になって、
相手を見失い自分自身を見失う姿を赤裸々に歌うこの曲は名曲だと思います。


Bruce Springsteen - Brilliant Disguise (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=idnJnjV_8rg



こちらはストーリーテラーの本領発揮な素晴らしい小品。
いくつかのエピソードを歌いながら、
「何かを願い事をする時は気を付けて。願い事には呪いも掛かっているから」
と歌う美しくも怖い曲。

少年はある日、
教会をサボって皆んなにビック・ジムと呼ばれる大きなナマズを釣りに行きます。
湖にボートを出して湖に釣り糸を垂らすと…


願い事が叶うと願ってない事までついて来るというお話です。


Bruce Springsteen - With Every Wish (Audio)
https://www.youtube.com/watch?v=1x_xkn-T5SM&list=RD1x_xkn-T5SM


そして世界の美しい情景を歌いながら、
「目が見えなければ良かった。君が他の男と歩いてるのを見るなら」
と何とも弱々しく歌うこの曲。
基本ロックンローラーって情けないって事を思い出させてくれる名曲です。


Bruce Springsteen - I Wish I Were Blind (MTV Plugged - Official HD Video)
https://www.youtube.com/watch?v=EJoBL6pjHIw


彼女との行く末を、
遊園地のびっくりハウス的なアトラクションに例えて歌う曲。
「この愛のトンネルの中ではお互いを見失うなんてとても簡単な事」
と歌いながらも前向きな曲。
MV含めこの曲、結構好きです。


Bruce Springsteen - Tunnel of Love (Official Video)
https://www.youtube.com/watch?v=M4K7XZGeHTE



そしてボスらしいライブではこれが好きです。
何度も曲が止まっては蘇る感じがかっこいいですね。


https://www.youtube.com/watch?v=JsUj6vcKIqw



ライブでは常にダイナミックでパワフルなパフォーマンスをするブルースさんですが、
本当はとても繊細でこんなに自信がなくて疑り深い弱い人間なんだよ、
と正直に歌う所がとても惹かれますね。
とても人間臭い人間、感受性溢れる素晴らしいアーティストだと思います。


映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』大ヒット上映中|秘蔵シーン満載!特別映像
https://www.youtube.com/watch?v=_fFoxJhvDYo



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